読書備忘録3

まずは宣伝。


杉本拓 SOLO LIVE !
会場:吉祥寺dzumi
日時:11月3日(土)開場17:30開演18:00
料金:1500円+ドリンク代(700円〜)
http://www.dzumi.jp/


ギター弾きます。よろしくおねがいします。


"Music 109 Notes on Experimental Music" Alvin Lucier WESLEYAN UNIVERSITY PRESS
最初は「読み物」かなと思っていたが、読み進めていくうちに、これはなかなか良い本だと思うようになった。何と言っても、読みやすい。そして分かりやすい。これは絶好の実験音楽入門書である。こういう音楽はおろか音楽一般について全く知識のない人でも読める内容なのではないだろうか(実際にそういうことをカバーで謳っているが)。ひとつのユニークな音楽入門書とも言えるかもしれない。考えてみれば、私は入門書が好きであった。なぜなら、ものごとは基礎のところが一番面白く、また思考を喚起するからである。
調性と転調、倍音列と純正律、スケールと和声、旋法、繰り返し、聴覚現象、音の物理的特性、エレクトロニクスとその装置、言葉、図形楽譜、声、録音、その他様々のトピックのなかで(それらは時に入り交じっている)、実験音楽の名曲(?)を解説しているのであるが、ほとんどの曲は著者が──企画者や演奏家、あるいは観客として──実際に関わったものである。ここに説得力があるわけだが、愛着故か、紹介するという立場をつらぬいているからなのか、クリティカルな部分は少ない。それぞれの曲について、ルシエは簡単にアイデアの核心を述べている。説明は簡素だが、それはマイケル・ナイマンの『実験音楽』よりはるかに具体的で分析的だ。「実験」という形容詞がなくても、音楽の解説書として面白い(しかし、勘違いか説明不足、あるいは誤植とおぼしき箇所もある。例えば、倍音列とスケールとコードの関係を説明するところがおかしい。基音をI(の根音)とすると、それに対する4次倍音はIV(の根音) ではない(3次倍音と4次倍音のインターバルは4度であるが)。基音の2オクターブ上である。またドイツ音名HはBbではなくBである。等々)。私はナイマンの本には散文的で思想的なものを感じるが(訳文で読んでいるせいかもしれないが)、こちらはもっと実際的で、教科書の様相を呈している。それは、この本がルシエがウェズリアン大学で実際におこなった講義をもとにしているからであろう。ただ、ルシエの本はほぼアメリカの作曲家とその作品に特化しているので、ナイマンの本の方が扱う範囲が広く譜例も豊富ではある。しかし、内容は意外と重複していないので(同じ作品を紹介するのでも書いていることが違うので)、2冊とも持っておいて損はない。実験音楽の現代の動向をより知りたい向きには、James Saundersが編集した"THE ASHGATE RESEARCH to EXPERIMENTAL MUSIC" (ASHGATE)がある。これはヴォリュームのある本(判型も大きい)で扱う領域もとても広く(即興、サウンドスケープサウンドアート等の関連領域の多くを含む)、それゆえ値段も少々高い。ヴァンデルヴァイザー周辺の作曲家が多くとりあげられているのも特徴で、そのあたりに興味がある人は手にとってもらいたい(と言っても、買うしかないのであるが)。この本は恐らく日本語にはならないだろう。なったとしても、5年後か10年後だろうし、それだと現代性が薄れてしまう可能性がある。それに、何故か日本語訳の本はヴォリュームが増す傾向にあるので、それにともない値段も恐ろしいものになるであろう。原著はB5で400ページ近くあるから、四六版になると1000ページくらいになるのではないだろうか?もっとも、もとが高い本だから、たいした違いはないかもしれないが。


その他読んだ本:
クリプキ ことばは意味を持てるか』(飯田隆 NHK出版)再読
『無限論の教室』(野矢茂樹 講談社現代新書)再読
著作権の世紀』(福井健策 集英社新書
『学者のウソ』(掛谷英紀 ソフトバンク新書)
『亀のひみつ』(田中美穂 WAVE出版)