読書備忘録 2014

去年一年で読んだ本である。全部で73冊だから(新品で買ったもの13冊、中古で買ったもの16冊、図書館で借りたもの37冊、友人に借りたもの6冊、立ち読みしたもの1冊)、一ヶ月に大体6冊ぐらい読んでいることになる。一般的な読書量としては多いのか少ないのかは分からないが、自分としては沢山読んだと思う。

去年頭の目標のひとつに、英語の本を20冊読むというものがあったが、これは叶わなかった。まあ、でも健闘したんじゃないかなあ。大著が幾つかあったし、特に、フレーゲに関するアンソロジーとハリー・パーチの本は文字通り格闘しながら読んだ。もっとも英語の本を読むこと自体がある種の格闘ではあるのだが、それとは別の格闘があったということ。この2冊は読了するまでそれぞれ一ヶ月以上を要しているはずである。しかし、私は一冊の本だけを最後まで読んで、次に別の本を読むということができないので、その間に同時並行的に別の本を何冊か読んでいるわけですが…

また、「文学」を――中にはそう呼びたくないようなものも幾つか含まれてはいるが――あえて読むことにしてみた。一番の収穫はシュペルヴィエル(次がロダーリ)。こういう文学が好きな人――あるいは必要な人と言うべきか――が必ず何人かいる。私もそのひとり。それから、こういうのはさっぱりわからない、という人がまた大勢いる。彼らにこの面白さを伝えることは多分できない。何千冊何万冊の本を読もうが、感じることのない人にとってはどうでもいい本であり、普段本を読まない人でも直感的に何かを感じる人にとっては大切な本になる、そういう類のものだから。要するに、勉強のために読むものではないもの。詩も哲学も本当はそういうものなんだと私は思う。

さらに、音楽に関する本も色々と沢山読んだ。これもまた異例である。半分は必要に迫られてだが、半分はそうでもない。このごろ思うのは、音楽はもう感覚だけでは出来ないのではということ。だからと言って、本を読んで理論や知識を得ればよいというものでもない。ここが難しい。私にとって大切なのは知的好奇心を刺激してくれる何かであって、実際の音楽よりもそれについて書かれたものの方が面白く感じられることが多いなら、そちらを優先したいということなのである。正直に言って、もはや大概の音楽は私の読んだ「音楽の本」より面白くない。だからこそそれに負けない音楽を作ろうと思うのである。知的好奇心を刺激するやつを。
能に関する本はちょっと事情が違う。能は実際に見るほうが圧倒的に面白い(しかし、その他多くの音楽よりは、能に関する本の方がまた圧倒的に面白い)。けれども、ただ漠然と能を観ていてもしょうがないではないか。今年は7回能を観にいったが、なるほど、知識が増えれば増えるほど能楽鑑賞が面白くなっていったのである。

もっとも面白かった本は何か?ドーキンスの『利己的な遺伝子』である。これは前から読もう読もうと思っていたのに長い間うっちゃっていた本だが、しかしタイミングとしてはよかったかもしれない。とりわけ興味深いのが"meme"(「自己複製子」と訳される。mimicからの造語だったと思う)という概念である。生物は遺伝子を運ぶ器であるとドーキンスは言う。だが、文化生活を営む人間にとって、運ぶものはそれだけではない。文化的遺伝子としてのmemeもまたそのようなものなのではないかと。こういう考えに私はほっとするのである。つまり、私が変な音楽をやっているのも、そのmemeがまだ絶えておらず、形を変えながら生き延び、たまたまかもしれないが私がその運び手になっていると思えるからである。人間なんてそんなもの過ぎない、と考えるとなんだか楽しくなってくる。
私がmemeを知ったのは、ダニエル・C・デネットの著作『解明される宗教』(安部文彦訳 青土社)を読んだ時である。私は特定の宗教の信者ではない、というよりはっきり無神論者である。にもかかわらず、私は自分のことを宗教的な人間だとずっと思ってきた。今でもそうである。では神がいなければいいのか?仏教は神なき宗教なのだろう。しかし何かに帰依するのがまっぴらごめんなのである。でもどうしても宗教的なものにとても惹かれてしまう。私にとって、例えば、ルドンは極めて宗教的な画家である。詩人のラフォルグも然り。デュシャンやケージもそうである。彼らの根っこ辿ると、そこには共通のmemeがあるのではないだろうか?そして、今思いついたのだが、稲垣足穂の言う「なつかしいもの」とはこのへんの消息伝えるものなのでは?


ウィトゲンシュタイン論理哲学論考」を読む』 野谷茂樹 ちくま学芸文庫 (再読)
『数学から超数学へ ゲーデルの証明』 E・ナーゲル J・R・ニューマン はやしはじめ訳 白揚社 (再読)
『怠惰への賛歌』 バートランド・ラッセル 堀秀彦・柿村峻訳 平凡社ライブラリー
美しい国へ』 安倍晋三 文春新書
"Introduction to Mathematical Philosophy" Bertrand Russel Digireads.com Publishing
『永遠の0』 百田直樹 講談社文庫
海賊とよばれた男』【上・下】 百田尚樹 講談社
プラハ獄中記ーー妻オルガへの手紙』 ヴァーツラフ・ハヴェル 飯島周訳 恒文社
"Composing Ambiguity: The Eearly Music of Morton Feldman" Alister Noble Ashgate 2013
『昭和史 1926ー1945』 半藤一利 平凡社ライブラリー
『合理的な愚か者』 アマルティア・セン 大庭健川本隆史勁草書房
『ハヴェル自伝』 ヴァーツラフ・ハヴェル 佐々木和子訳 岩波書店
大杉栄評論集』 飛鳥井雅道編 岩波文庫
"Essays on Frege" edited by E. D. Klemke University of Illinois Press 1968
『愛の渇き』 三島由紀夫 新潮文庫
『鼻/外套/査察官』 N・ゴーゴリ 浦雅春訳 光文社
"Draw a Straight Line and Follow It: The Music and Mysticism of La Monte Young" Jeremy Grimshaw Oxford 2011
『オネーギン』 プーシキン 池田健太郎岩波文庫
"Tuning and Temperament: a historical survey" J. Murray Barbbour Dover 1951/2004
言語学の教室』 西村義樹 野矢茂樹 中公新書 2013
『かもめ』 A・チェーホフ 湯浅芳子岩波文庫
スペードの女王/ベールキン物語』 プーシキン 神西清岩波文庫
『トーニオ・クレーガー 他一篇』 トーマス・マン 平野卿子訳 河出文庫
ミニマル・ミュージックウィム・メルテン 細川周平訳 冬樹社
ハンガリーの音楽』 シャーロシ・バーリント 横井雅子訳 音楽之友社 1994
『「4分33秒」論』 佐々木敦 ele-king books 2014
"Genesis of a Music (second edition)" Harry Partch Da Carpo Press 1974
『響きの考古学』 藤枝守 音楽之友社 1998(再読)
『音律と音階の科学』 小方厚 講談社ブルーバックス 2007( 再読)
『クロイツェル・ソナタ/悪魔』 トルストイ 原卓也新潮文庫
デレク・ベイリーーーインプロヴィゼーションの物語』 ベン・ワトソン 小幡和枝訳 工作舎 2014
『音楽と数学の交差』 桜井進 × 坂口博樹 大月書店
倍音』 中村明一 春秋社
『海に住む少女』 シュペルヴィエル 永田千奈訳 光文社古典新訳文庫
利己的な遺伝子』 リチャード・ ドーキンス 日高敏隆 岸由二 羽田節子 垂水雄二 = 訳 紀伊國屋書店
民族音楽研究ノート』 小泉文夫 青土社 1979
ハンガリーの音楽教育と日本』 岩井正浩 音楽之友社 1991
ハイデガーナチス』 ジェフ・コリンズ 大田原眞澄訳 岩波書店 2004
"Boring Formless Nonsese" Eldritch Priest Bloomsbury 2013
『ブルース・ピープル』 リロイ・ジョーンズ 飯野友幸平凡社ライブラリー 2011
『親のための新しい音楽の教科書』 若尾裕 サボテン書房 2014
『ブラウン神父の不信』 G・K・チェスタトン 中村保男訳 創元推理文庫
『二十世紀数学思想』 佐々木 力 みすず書房 2001
マイ・フェア・レディーズ』 トニー・ケンリック 上田公子訳 角川文庫
『能への扉』 原田紀子 淡交社 2010
『ガイアの素顔 科学・人類・宇宙をめぐる29章』 フリーマン・ダイソン 幾島幸子訳 工作舎
『カラダという書物』 笠井叡 書肆山田 2011
"John Cage: an anthology" edited by Richard Kostelanetz Da Capo Press 1991
グレン・グールドは語る』 グレン・グールド ジョナサン・コット 宮澤淳一ちくま学芸文庫
『子どもの歌を語る』 山住正巳 岩波新書 1994
『新版 古楽のすすめ』 金澤正剛 2010
エレンディラG・ガルシア=マルケス 鼓直木村榮一ちくま文庫
"The New York School of Music and Visual Arts" Edited by Steven Johnson Rouletge 2002
"How equal temperament ruined harmony (and and why you should care)" Ross W. Duffin Norton 2008
マクルーハン理論』 M・マクルーハン E・カーペンター 編 大前正臣・後藤和彦平凡社ライブラリー
『面白いほどよくわかる能・狂言』 三浦裕子 日本文芸社 2010
"MUSICAGE" John Cage in Conversation with Joan Retallack Wesleyan 1996
『能の表現』 増田正造 中公新書 1971
雅楽を聴く』 寺内直子 岩波新書 2011
『日本の音』 小泉文夫 青土社 1977
武満徹 自らを語る』 聞き手ー安芸光男 青土社 2010
生物多様性はなぜ大切か?』 日高敏隆編 昭和道 2005
"EMPTY WORDS" John Cage Wesleyan 1981
『昆虫にとってコンビニとは何か?』 高橋敬一 朝日新聞社 2006
アメリカを変えた日本人 国吉康雄イサム・ノグチオノ・ヨーコ』 久我なつみ 朝日出版社 2006
『猫とともに去りぬ』 ジャンニ・ロダーリ 関口英子訳 光文社古典新訳文庫
『自然はそんなにヤワじゃないーー誤解だらけの生態系』 花里孝幸 新潮選書 2009
『心より心に伝ふる花』 観世寿夫 白水社 1979
『人間以前の社会』 今西錦司 岩波新書 1951
『現代音楽の冒険』 間宮芳生 岩波新書 1990
『弱者の戦略』 稲垣栄洋 新潮社 2014
"echtzeiymusik" editors: Burkhard Beins, Christian Kesten, Gisela Nauck, Andrea Neumann wolke 2011
『生態系ってなに?』 江崎保男 中公新書 2007



コンサートがあります。


2015/01/11 l-e実験音楽演奏会 9
開場/18:30 開演/19:00
1,000円+1ドリンク

ゲスト:杉本拓

出演:
小林寿代
佐々木伶
高野真幸
中条護
平野敏久
山田寛彦
米本篤

作曲:
佐々木伶「グローバリゼーションの波が押し寄せてきました。頑張ります。」
高野真幸「Triangle Septet Live !!」
山田寛彦「ギターカルテットで演奏します。演目は未定です。」
小林寿代 「温度を意識した曲を考えています。」
中条 護「前回の佐々木さんの作品をヒントに図形楽譜を作成、演奏してもらいます。」
平野敏久 「ギター2、バリトンギター2、ベース2による六重奏曲です。演奏者は二点間を行き来するのみ、反復運動に専念してください」
米本 篤 「無題」

http://www.l-e-osaki.org/?p=3357