事務所コンサート

下北沢のある事務所(大原1丁目)でコンサートをします。

『事務所コンサート』vol.1
2010年9月16日(木)
出演:池田陽子ヴィオラ)、杉本拓(ギター)
開演:19時30分
料金:1200円
限定10人 予約: slubmusic@aol.com (待ち合わせ場所を教えます)

まあ、きちんとしたコンサートというよりは、一種のサロン、もしくは飲み会をふくむ会合のような感じになればと思います(もし人が来ればですが)。
今回やる曲は、ひとつはヴィオラのソロ、もうひとつはヴィオラとギターの二重奏です。
今後は弦楽器の独奏曲を集中して作ろうかなと考えていまして、最初はヴィオラにしました。ついでのコンサートもやろうということで、セグメンツ・ストリング・カルテットでも活動されている池田陽子さんに演奏をお願いしました。


さて、告知だけするのもイヤなので、少し何か書こうと思う。別の文章を書いていて、それが一向に進まないので、気晴らしもかねて。
自分でやっていながらこんなことを言うのはどうかと思うが、今回から私がやるようなプライベートな空間でのコンサートが増えることによって、これまで我々がやってきたような形でのコンサートはひょっとして減るのではないだろうか。
ロックをやっていたころ(またやってますが)、演奏する場所はライブハウスが中心だった。しかし、これはまったく儲からない。儲からないどころが、チケット・ノルマのせいでほとんど赤字だった。加えてスタジオ代もかかるのである。ところが、大きな音を出さず、ドラムもPAも必要ないのであれば、何もライブハウスで演奏する必要はない。こういうことに気づきはじめた。90年代の中ごろくらいからは、ギャラリーとか小さなバーとかで演奏することの方が多くなった。中には大きな音で演奏できるところもあったが、サイズ的な問題もあり(どうしても圧迫感が生じてしまうので)、大きな音で演奏する事は少なくなっていった。一番のメリットは経済的な負担が減ったということであった。場所を借りるような形でやったとしても、10〜15人くらいくれば、こちらの持ち出しはほとんどない、またはちょっとした黒字になる、という感じだった。料金もライブハウスでやるよりも安く設定できたし、タイバンとかも考える必要がない。
こういうことに味をしめると、なかなかもとの世界には戻りたくないものである。私達は決して儲かってはいなかった。しかし払うようなことは減ったのである。もうノルマのために質屋に行ったり、CDやレコードを売るのはまっぴらごめんだった。どう考えても売れる音楽じゃないから、10人くらい来てくれて、こちらの支払いがなければそれで十分であった。その頃にはノルマなしでライブハウスに出演出来ることもあったが、それでもライブハウスにはあまり出なくなっていた。
私の音が小さくなっていったのは(その空間に応じて音量をあわせるようになったと言う意味でだが)、実は経済的な要因が一番大きかったような気がしないでもない。やがて『バー青山』とか『オフサイト』とかの定期的に演奏できる場所が増えた。その頃にはもう、演奏する事は仕事でもあった。それなりの、少なくとも帰りに一杯ひっかけるくらいの収入が見込めるようになっていた。ギャラがそれなりに出る仕事も舞い込み始めた。
ところが、幸福と言うものは長く続かないもので、2〜3年の安定期のあと、一時は平均25人くらい来ていたお客さんの数が減るようになってきた。やがて『オフサイト』にノルマが出来るようになって、私はそこを去った。2002年のことである。いくつかの例外はあるが、お金を払って自分の演奏をきいてもらう、ということはしたくなかった。
その後は、聞くも涙、話すも涙である。それでも、ひょっとしたら今よりはましかもしれない。日本でのライブは極端に減ったが、CDを出したいというオファーもあり、そのギャラももらえた。海外での演奏もあったし、国内でも仕事的なコンサートがいくつかあったから。
なんか話が長くなってきたな。ちょろっと書くつもりだったのだが。先を急ごう。
私を暗黒から救ったのは『キッド・アイラック』と『ループライン』であった。私はこの5年間、東京ではこのふたつの場所を中心に活動してきた。このふたつの場所にはどういっていいか分からないくらいお世話になったし、なにより自分自身が楽しんで活動することが出来た。そしてこれからも何かをやっていきたいと思うのである。
しかし、状況はとてつもなく厳しい。私が単独でコンサートを企画したとして、見込める入場者はせいぜい5〜6人である。それでも気持ちよく企画を受け入れてくれる『キッド・アイラック』と『ループライン』には感謝するばかりである。ではあるが、私の方がまいってきたのである。お客さんが来ないというのはもう仕方のないこととして割り切れても、やはり経済的な苦しさに疲れてきてしまった。ライブを企画するといくことはそれなりにエネルギーを使う。しかし、収入は少ない。よくて、往復の電車賃、ビール代、立ち食いそば代、『C&C』代に消えてしまうのである。自分ひとりだったらまだよい。しかし、これでは曲を演奏してもらう人が呼びにくい。
考えてみれば、この手の音楽は適当な空間さえあれば良いわけだから、より規模を縮小してプライベートな空間でも演奏可能である。実際、こういう試みは最近目立つようになった。企画するミュージシャンにとっては経済的なリスクも少なく、ひょっとしたら、物珍しさからお客さんの数も(始めのうちは)増えるかもしれない。しかし問題もある。こういうコンサートのやり方が波及することによって、『ループライン』のような場所での実験的なライブの数が減るかもしれない。ただでさえ少ない観客数がより少なくなる可能性もないとはいえない。配信と同じで、ライブを企画するということの難易度が下がれば、自分でそれをやる人達が増える可能性もある。というより、純粋な観客というのはもうこれから減り続ける運命なのかもしれない。それは表現するということの難易度が色んな意味で下がったせいではないだろうか?
とにかく、私はどうすべきか考えざるをえなくなった。珍しく悩んでいるのである。現在の状況はとてつもなくまずい。しかし、これが良くなるとはとても思えない。せいぜい悪化の進行を遅くすることしかできないのでは?そう考えると、どこでライブをやるか、ということも、より全体的なことを考慮に入れるととても重要なことであると思う。もちろん、それは選択肢の問題なので、個人の自由な判断に任せるべきなんでしょうがね。