11日。地震の時は家にいた。本やら色んなものが落ちてきて、やけにゆれたなぁと思いはしたが、その時は特別な事態が起こりつつあるとはあまり思ってなかった。『現代ハイツ』のグラスが落ちて割れたんじゃないかとか、高所で作業している人達はだいじょうぶだったのだろうかとか、食事をしていた人は大変だったろうとか、そういうことがまず頭をよぎった。家にはインターネットもテレビもないので、とりあえず携帯ラジオをつけると、震源地や各地の震度についての情報が流れていた。東京は震度5弱とのことだが、これがどういうレベルなのかも分からない。珍しく大きな地震だったなぁという実感しかなかった。しかし、津波の情報を聞いてからは、だんだんと危機感が増してきた。だが、これから襲ってくる津波に対して私はどうすることも出来ない。避難できることを祈るくらいである。でも、今となっては自分の認識の甘さを恥じ入る他はないが、恐らく避難がうまくいくのではないかという楽観もあった。しばらくするとゆれが治まってきたので外に出てみたら、いつもとあまり変わらない光景である。その後しばらく家にいたが、夜になって出歩いてみた。ネットに接続できるところに行き、用事をすませてから外にでると、下北沢にも徒歩で帰宅中と思しき人々がいる。電車が止まっているということはラジオで聞いていた。しかし一番街に入ると、人の流れも消えていつもと同じだ。飯田さんの店に顔を出す。バルサミコの瓶が割れただけでたいした被害はなかったらしい。我が家の被害も蚊取りブタだけだった。やがて、会社から徒歩で帰ってきたという常連客、新宿で仕事をしていて自転車で帰る途中でたちよった中村としまるさん、ハイツの岩田さんなどが顔を出して、地震発生時にそれぞれのおかれていた状況等を話し、あとはいつもの雑談になった。いつもと同じ平和な一夜であった。帰宅後にラジオをつけると、どうやらとんでもないことになっている、ということが分かる。その時以来、ちょくちょくラジオを聞くようになる。出かけるときもポケットに入れるようになった。
12日。ラジオは各地の被害状況を伝えている。私にはどうすることも出来ない。家で作曲をする。特にどういう編成でやるかあてのない作曲である。原発が危険な状態にあるらしい。原発にすっと反対している叔父さんのことを思った。海外の友人よりたくさんのメールがとどく。私は大変な状況におかれているわけではないが、気持ちはとてもありがたい。
13日。仕事で赤坂へいく。某ビルのメンテナンスの仕事。6階は雑誌・本がちらばっていてなかなか凄いことになっていた。高いところはゆれも激しかったのだろう。作業中にもゆれを感じた。仕事が終わって『ハイツ』に顔をだした。こずえちゃんのお別れ会が催されていたが、これには会費が調達できずに不参加。『ハイツ』の一般客として(それも仕事後の特別割引料金で)顔を見せるのが精一杯だった。帰宅後、食事をして、酒を飲んで寝る。
14日。原発のことが気になってしょうがなかった。だからといってどうすることもできないので、いつものように作曲、そして読書。
15日。大友さんの『JAMJAM日記』を読んで、多くの点で共感した。私も今は日本を出たくない。できれば東京を出たくない。東京は私の故郷であるから。被災地では多くの人が住んでいるところ失い、避難を余儀なくされている。故郷にはもう帰れない(帰りたくない)という人もいるかもしれない。痛ましいことである。幸いなことに、今日本を離れなければいけないような仕事は私にはない。しかし、もしそういう仕事が仮に今あれば私は行くしかないだろうと思う。それは、こういうときだから音楽を、とか、日本人としてどうのこうの、とかいうことではなくて、単に経済的な理由でそうせざるを得ないということにすぎない。未払い金(受け取るべきお金)は多くあるが、現実の私はほぼすっからかんである。東京でのライブにしても、日銭を得る手段として(もちろんそれが直接の動機ではないが)、できるかぎりやりたいのである。要するに、今までどおりたんたんとやるしかない。節電、といっても空調を切るくらいしかできない。昼間はもともと明かりはいらないし。町中の店は暗めだが、これくらいでいいと思う。
16日。『水曜ハイツ』はこのところ人がこないので、収入がほとんどなかった。もうやめようかとも思ったが、こういう機会でもないと人と会って話すことも少なくなるだろうから、やはりやったほうがよいのだろう。友人というのはありがたいものである。この日はそれなりに賑わった。そういえば最近は古池君に会うことが多い。ガソリンが買えないとの事だが、週末からの仕事はどうなるのだろうか。
17日。昼は豪徳寺のそば屋で食事。久しぶりにテレビを観た。夜は実家に行く。ここでもテレビを観る。警察の放水車は水が届かなかったのこと。あんな水鉄砲の親方みたいのが何かの役に立つとは思えない、というのは初めからわかりそうなものだが。それにしても、地震や津波は天災としてどうしようもないのかもしれないが、原発に関してはそう言えないと思う。あれは事故(すなわち人災)である。東京電力は何をしているのか。現場で実際の作業しているのは、自衛隊を除くと、下請け会社の人達なのではないかと思ってしまう(ひょっとしてアルバイトみたいな人達をふくむのではないか?)。どうであれ、彼らが危険な作業をしているのに、本体は記者会見ばかりしている。責任の大半は企業(東京電力)にあるというのに。企業のあり方にも問題があるのだろう。実家からテレビ(モニター)を借りた。DVDを観るためである。こういうときでもあまりテレビは観たくない。アンテナには(多分)接続しないつもりである。あまりに寒かったので暖房を少し入れてしまった。