2冊の数学啓蒙書(読書備忘録4)

数学啓蒙書を2冊読んだ。
『零の発見』(吉田洋一 岩波新書
『無限と連続』(遠山啓 岩波新書
どちらも古い本で、『無限と連続』の初版は1952年、『零の発見』は1939年である。それにしても数学というのはやっかいな学問だ。著者自らが「通俗的読物集」と言う『零の発見』はともかく、『無限と連続』の方はそれなりに難解で、注意深く読んでいても、全部は理解できなかった。謳い文句とは違って、数式も結構出てくる。最初の「集合」のところはとても分かりやすいし、「位相」のところも、完全な理解は無理でもアイデアはつかんだような気がするが、「群」の後半はかなりの曲者である。著者は具体的な例を出して説明しているのだが、その本質は極めて抽象的でイメージがうまくつかめない──まあ数学というのはそういうものであろうが。「トポロジー写像」や「射影幾何学」とか、とても面白いんだが(なるほど、こういう用語を使いたくなるポスト・モダニストたちの気持ちもわからないではないな)、数学的にきちんと理解するには多大な努力を必要とするであろう。恐らく、この本より易しくこれら現代数学の根本概念を説明している本はあまりないであろうが、それにしても一筋縄ではいかない。また、仮にこの本で説明しているような概念を理解できたとしても、次のステップが難しい。例えば「位相」に興味を持ったとして、次に読むべき本があるのだろうか? 『位相入門』と題した本ですら、門外漢には専門的過ぎてチンプンカンプンであろう。こういうものを誰にも教わらず学ぶことは無理である。中間のものがあまりない。専門家として訓練を積むのでなければ、また啓蒙書ないし通俗的解説書に戻るしかなく、なかなか真の数学的理解にはたどり着けない。それでも、読まないよりはマシで、漠然とでも現代数学のアイデアをつかむことはそれなりの意義があるとは思うが。

最近読み始めたのは
"NEW MUSICAL RESOURCE" Henry Cowell CAMBRIDGE
カウエルは、一時期ケージに音楽を教え、彼をシェーンベルグのところへ行くように薦めた作曲家。予想したのとは違う内容だったが、興味深い内容の本である。専門的な音楽本の部類に入るかもしれない。第一章は倍音列の話。西洋音楽が複雑になっていったのは、長い時間をかけて徐々に高次の倍音と隣り合うそれらのインターヴァルをスケールや和声に取り込んで来た結果であるということを説明している。(オクターブは1:2、完全5度は2:3、長3度は4:5で、それぞれ、第1倍音と第2倍音、第2倍音と第3倍音、第4倍音と第5倍音の比である。隣り合う倍音の比は高次になるほど狭まるから、短3度、2度、短2度、またその中間的なものから、3分音、4分音と、そのインターヴァルはどんどん狭くなっていく)。
私はひとつ勘違いしていた事があって、second overtoneというのは第2倍音を指すのかと思っていたらそうではなく、第3倍音のことであった。first overtoneが第2倍音なのであった(overtoneというくらいですからね)。基音はfundamental (tone)。ただしsecond partial(またはsecond harmonic)は第2倍音である。こちらではfirst partialが基音。けっこうややこしいですね。この混乱はアルヴィン・ルシエの本にもあった。彼も、second overtoneを第2倍音、third overtoneを第3倍音としていないだろうか。そうでなければ、よりおかしなことになる。実はこのカウエルの本は、ルシエの本で紹介してあったから読んでみようと思ったんだが。
あとアンダートーン・シリーズというのもある。これはオーバートン・シリーズ(倍音列)とシンメトリーになっていて、オクターブ、そこから5度、そこから4度、そこから3度と基音から低くなっていく。これはどうも共鳴に関わっているらしい。モスクワのなんとか教授がこれが聞ける装置を作ったらしいが、私も是非聞いてみたい。
しかし、まだ最初の章しか読んでないが、ここで書かれていることは現代の音楽(史)的常識なのだろうか(当時は、少なくともスタンダードな音楽知識においては、そうではなかったらしいが)? あまり聞かない話ではある。まあどっちでもかまわないが。

その他読んだ本:
『デジタルコンテンツをめぐる現状報告』(出版コンテンツ研究会、岩本敏、佐々木隆一、加茂竜一、境真良、小林弘人、柳与志夫ポット出版)ゴミ捨て場で拾ったものだが、貧乏性なので読んだ。
『英語表現を磨く』(豊田昌倫 講談社現代新書


l-eで連続コンサートをやります。


12月21日(金)、12月22日(土)、12月23日(日)
杉本拓作曲作品演奏会
大崎 l-e  
http://www.l-e-osaki.org/


12月21日(金)
杉本拓(ギター)
19:30 開場
20:00 開演
1500円 + ドリンク


12月22日(土)
杉本拓(ギター)
19:30 開場
20:00 開演
1500円 + ドリンク


12月23日(日)
大蔵雅恵(ヴォイス)、佳村萠(ヴォイス)、杉本拓(ギター)
19:00 開場
19:30 開演
1500円 + ドリンク