観客数の問題 その2

3連続でお客さんの数が一桁だったので、これはまずいかもと思って、今年になってからの平均観客数を算出してみると、11.43人だった(最高は25人で最低は2人)。これはどういうレベルの数字なのか?間違っても多くはない。しかし、こんなもんでしょう、という気がしないでもない。とりあえず二桁にはなっているし(今のところ)。冷静になって考えてみると、もう何年もこんな感じだったように思う。もちろん希望としてはもう少し入ってほしい。せめてあと3〜4人くらい増えないだろうか、何か打つ手はないだろうかと悩む。もともと売れる音楽じゃないから、売るための努力はむなしいが、多少状況を変える努力はしなくちゃいけないだろう。でもどうすればいいのかな。私なりに色々やってきたつもりだし、これからもこりずにやるだろうけど、それでも集客的なことに関しては実りがほとんどない。地道に続けていけば報われる、なんていうことは私がやっているような音楽にはあてはまらない。私は今になってそのことを痛切に実感している。もし沢山の人に聴いてもらいたいなら、音楽そのものを変えなければいけない。それはどうあってもできない相談である。あるものがたまたま売れるということは、多少はほかのに比べてとっつきやすい音楽もやっているので、あるだろうし、あってほしい。しかし、自分の音楽の中でこういうものが売れる--あくまで比較の問題だが--という傾向が分かったところで、それだけを追求するわけにはいかない。表面的な違いはたまたまそうなるのであって、本質は別にあるからだ。もう20年以上音楽をやってきて、自分の本質的なところ--業といっても良いが--は変えようがない。このままやり続けるしかない。問題は観客動員数が少ないままライブ活動が継続できるかである。私が今発表の場を持てるのはループ・ラインやキッド・アイラック・アート・ホールのような存在があるからである。私がやっているような実験的な音楽が存続しているのはそういう場所があるからである。少なくとも私が音楽を続けていけるのはループ・ラインとキッド・アイラック・アート・ホールがあるからだ。ありがたいことである。何とか集客数を増やしたいのだが・・。かつてはオフサイトもそういう場所だった。しかし、2002年頃にちょっとしたノルマのようなものが出来て、私がそこで演奏活動を続けていくのは困難な状況になってきた。もちろん、ああいった小さなスペースを維持していくのは大変なことで、ノルマを設けるということは正当な判断であると思う。我々演奏者側も会場の好意に甘えてばかりいるわけにはいかない。いつも言えることだが、演奏する場所をなくさないために生じる責任は音楽家の側にも当然ある。それにノルマといっても、確か1500円で7人の有料入場者が入ればこちらの持ち出しがないくらいの極めて良心的なものだった。7人くれば支払いの必要がないわけだから、今までさんざんノルマだのレンタル料金を払ってきた身としては、他と比べて圧倒的に好条件だったと言える。それでも、このオフサイトのニュー・オーダーは私の周りで静かな波紋を生んでいた。普通に考えれば、7人くらいは来るだろうと思われるかもしれない。所謂音響的即興も成熟期をむかえ、認知度も高まりはじめてはいた。しかし、たまに観客としてオフサイトを訪れた時に目にした観客の数は決して多いものではなかったように思う。この手の音楽にとって7人の観客を集めるのは決して低いハードルではなかった。観客が毎回10人を超えると言うのは、奇跡とは言わないまでも、かなり難しいものになっていたのではないだろうか。やる側が増えて、それにしたがいコンサートの数が増えた、というのも一因であろう。もともと少ない観客を奪い合うような状況がはからずとも出来てきたともいえる。企画を組む事はいちかばちかの賭けのような様相を呈してきた。私にとって状況はさらに悪かった。それはもちろん自分の音楽性から生じた問題である。その少し前から私は長い沈黙を音楽に導入し始めていた。ラドゥ・マルファッティやヴァンデルヴァイザーの音楽家からの影響もあって、一時間に音が数回みたいな音楽に取り付かれていった。この時期が我が音楽人生の中でもっともエキサイトした時期であったと今にして思う。特にラドゥと続けた沈黙ばかりのデュオは本当に新鮮な体験であった(日によっては、いきなりいつもより音数が増えたりしたことも含めて)。それはともかく、こんなふざけた(と多くの人にはとられていたようだ)音楽に人が来るわけはない。それは分かりきっていた。2002年の3月だったか4月だったかにウィーンでラドゥの曲を2人で演奏した時、お客さんは関係者を入れて4〜5人だった。200人は入るだろう会場でである。なにかの間違いで(としか思えない)入場していたお客さんのひとりが終演後に「これは宗教の儀式のようなものなんでしょうか?」と訊いてきたことはずっと忘れられない。その前年に観たアントワン・ボイガーのコンサートは関係者以外のお客はゼロであった。コンサートは本当に素晴らしいものであったが、それを体験できたのは私を含む4〜5人の関係者だけであった。そう、こういう音楽に人は入らないものである。それでも当時は、ひょっとしたら来るかも、と言う幻想がなかったわけではない。しかし、というか当然であるが、私のコンサートに来る人の数はあっというまに減った(そればかりか共演者もいなくなった。しかし、これはもう少し長い時間をかけてのことである)。まさに、7人以上のお客さんが来る事は考えられない状況になってきたのである。毎回不足分を支払うことが予想できるような状況で、オフサイトでコンサートを続けることはできない。自分で企画することはもう無理だった。赤字がたてこむと音楽どころの話ではなくなる。私がオフサイトを離れた理由のひとつはお金の問題である。この後数年間は自分でコンサートを企画する事はほとんどなくなった。日本ではどこで演奏していたのだろうか。あまり思い出せない。友達の企画するコンサートに呼んでもらうとか、そういうことが多かったんだろう。今はまた自分で企画してコンサートをやっているが、音楽性の変化もあって、オフサイトを離れた頃よりは少し観客数は増えているはずである。しかしこれ以上はやはり難しいと思わざるを得ない。私がやっているような音楽にとって状況は良くなってはいない。現状を維持するのも大変なのである。