読書備忘録1

例の原稿はアクセプトされた模様。結構気に入ってくれたようで良かった。それで、もう一度読み直してみたら、致命的な間違いがあって、急いで直した。この部分がパスしたということに若干の不安が残るが(とんでもないことを、間違えて書いていたので----それでも意味は成すから誰も何も言わなかったのだろうが)、言わんとしている事は理解してくれたようだ。
『ダメットにたどりつくまで』(金子洋之 勁草書房)が面白い。海外小説の日本版タイトルみたいだけど、これは哲学書です。副題にあるとおり、(ダメットの)反実在論とは何か、についての入門書であるのだが、のっけから本格的な議論が展開していて、頭がおかしくなりそうだ(笑)。でも、そういう風になれるというのが哲学の面白いところであると思う。おかげでページがちっとも進まない。それにこの本、一回読んだくらいじゃ、たいしたことは理解できないかもしれない。やっぱり買わないとだめか?文庫にならないだろうか。
ところで、哲学には色々な立場があるが、私自身はどうなのか?どのような立場がもっとも受け入れられるのか(私が納得するものなのか)、これがよくわからないのである。唯名論相対主義に惹かれる事も多いが、実在論も面白い、といった具合に(これも相対主義の一種かもしれないが)。辞書をひくと、「実在論」の対義語は「観念論」になっている。単純にこれだけだったら良いのだが、実在論にも色々あり、反実在論にもいろいろあるようで、さらに何が実在論で何が反実在論なのかは簡単には分からなくなっているらしい。もちろん、他にも色々な概念的立場があるから、実際はもっと錯綜しているに決まっている。あー、難しい!
ジュームス・ロバート・ブラウンによると、アラン・ソーカル(とジャック・ブリクモン)がおこなった最大の功績とは、ポストモダン著作家のいう事の多くが無意味なたわごとだった、ということを暴いたことではなく、親科学の左派の存在を世にしらしめたことであるらしい。う〜ん、恥ずかしながら、そんな事はまったく考えたことがなかった。あからさまな場合を除いて、ある本なり著作家の書く物が、左の立場から書かれているのか、はたまた右なのか、ということには、まったく無頓着であった。「ポストモダン」が左寄りである、ということすら知らなかったくらいである。もちろん、実際にはそんな簡単に分けられるものではないのだろうし(哲学の立場と同様に)、そうする必要があるとも思わないが、ともかく、そういうことを考慮に入れて本なり文章なりを読んだことがほとんどなかったのである。イデオロギーと科学や哲学が無関係であると思うほど若くはないし、実際多いに関係ある事も分かるが、それでも本質は別にあるとどこかで信じているからであろう。どんな考えであれ、その内容が自分に取って重要であるか否か、ということの方が大切なのである。
私はまったく政治オンチで、ついでに言えば、「保守」とか「革新」の意味もよくわかってない。言葉通りにとれば、どちらにも反対する(そして賛成する)理由がない。とは言え、私自身は「保守」の方が好きかもしれない。ものごとは急に変わらないほうが良いと思っているからだ。けれども現実には「保守」の方が「革新」をしているのではないだろうか。原子力の利用も、コンピュータやインターネットの普及も、どちらも革新的な出来事である。そういうものを危険であると言う時(後者に関しては、誰も言わないかもしれないが)、それを「革新」の立場から言うのであれば、それは何事を意味しているのであろうか。これは実にナイーブな問いである。それに、現実に対し、なんの有効性も持たない。けれども、そういうことを知りたいのである。

最近読んだ本
『人間の安全保障』 アマルティア・セン 東郷えりか訳 集英社新書
『タオは笑っている』 R・M・スマリヤン 桜内篤子訳 工作舎
純正律は世界を救う』 玉木宏樹 文化創作出版
『なぜ科学を語ってすれ違うのか』 ジュームス・ロバート・ブラウン 青木薫訳 みすず書房
ポストモダンとは何だったのか?』 本上まもる PHP新書
『日本音楽の歴史と鑑賞』 星旭 音楽之友社
ヒトラーユダヤ人』 大澤武雄 講談社現代新書
スターリン・ジョーク』 平井吉夫編 河出文庫
"Introduction to Elementary MATHEMATICAL LOGIC" Abram Aronovich Stolyar DOVER (例の原稿を書く際に、英語の書き方に関して、参考にした本。述語論理のところしか読んでない)


告知:

2012年8月19日(日)
Simon Roy Christensen、杉本拓
開場18時30分 開演19時00分
料金 1500円+ドリンク
大崎 l-e
http://www.l-e-osaki.org/