接地炎上近し(観客数の問題 その3)

6、8、2、3、2。ここ5回のコンサートでのお客さんの数である。5連続で入場者数一桁を記録した。とくに最後のみっつには、全部足しても(7人)かつてのオフサイトのノルマにとどくかどうかいう悲惨な数字が並んでいる。どうしたものか、これは。
カントールは無限にも様々な濃度があることを発見したが、私は同じ一桁の入場者でも数によって意味合いが(ショックと言ってもいい)かなり変わることを学びつつある。普通にお客さんが入るような音楽をやっている人にとって入場者が一桁というのは、あってはならないもので、何人だろうが変わらないと思っている。そういう人たちにとって「一桁の入場者」というのは観念的なものにとどまっているはずである。実際の数字は関係ないのである。ところが私にとってはそうではない。9と5と2ではこちらの感じ方がまったく違ってくる。
9なんてあと一人で二桁である。たまたま、天候とか、同じ日に強力な裏番組があったとか、そういう事情でたまたま一桁だったけど、こんなことは続かない、明日があるさ・・・・・、そんな風に思える数字である。チェスで言えば7段目にいるポーンみたいなものである(いつか何かの機会にクィーンに昇格するかもしれないから)。今度のライブはうまくいけば20人くらい来るかも、みたいな幻想をいだいてもおかしくないでしょう、9人来たのなら。
5人になると状況はシリアスになってくる。その差わずか4。50人と54人はほとんど変わりない。数なんか数えなくてもいい。「大入り」だ。20人と24人も私にとっては大した違いではない。これも「大入り」。しかし、5人と9人の差と言うのはなかなかに無視できないものがある。昔、『バー青山』で即興のシリーズを始めた頃、入場者の数は4〜5人だった。「毎回こんな感じだったら、こちらとしてももっと人の入る企画を優先したい。なんとかしてくれ」と店長に説教されたことがある。運よくその後は人がはいるようになったが、確かに4〜5人が続くというのは店側にとってはきついものがあるだろう。いつ「おひきとりください」と言われてもおかしくない数字である。その前に、「こりゃ潮時かもな」と思うのが普通かもしれない。とにかく、観客5人というのは相当の緊張感をもたらす。やめるべきか?続けるべきか?廃業すら考えざるを得ないのが「5人」。
さて、とにかく私は続けてきた。観客が5人なんていうのはざらだったし、去年スイスでゼロを経験したから、もう怖いものはないと思っていた。ところがギッチョン、流石の私もお客さんの数が2人、3人、2人と続くと、かなり精神的にまいってきた。今までなんとかやってきましたよ。もう20年以上、得意の低空飛行でしぶとく生きぬいた。しかし、さらに高度を下げなくちゃいけないんですか?それはあまりにスリリングすぎる。ちょっとした操縦ミスで接地炎上大爆発。そういう恐ろしい世界に参入することになるのか。しかし、その前に「おひきとりください」かもしれないなあ。昨日のキッドアイラックでは演奏者10人なのにお客さん2人。このシリーズももう20回やっているが、確実にお客さんは減っている。もう1年くらい二桁の声を聞いていない。しかもその一桁の中で着実に数は減ってきている。こんな有様では、会場を提供してもらっているキッドアイラックにも手伝ってくれる音楽家の方にも申し訳が立たない。この2日間は音楽的にはかなり得るものがあって、もう何回か同じようなことをやりたいとは思うんだが、観客2人では参加してもらう音楽家に十分なギャラが払えないばかりか私自身が経済的に苦しくなる。それよりなにより頼みづらいですよ、コンサートをやらしてくださいと。このまま続けると2人どころかいつかゼロになって、「ああどうか1人は来ますように!」なんてことを願う日々がおとずれないとも限らない。そうなったらいくらなんでも廃業だな。炎上です。もちろん音楽は続けるけど、人前ではやらないだろう。というか出来ない。
しかし、何でこんなことになっちゃたのか。長いこと音楽をやって来て、即興音楽界とか実験音楽界には相当貢献したはずなんだが。かつてはシーンを盛り上げたし、様々な問題も提議した。CDもそうとうリリースしてるんだけど(ほとんどのが売れてはいないが)。やることなすことほとんど手ごたえなし。『三太』も反響なかったしね。一体世の中どうなっているのか?
しかし本当に疲労してきた。趣味で音楽やっているわけじゃないので、いろいろ考え、それを実行するだけでもエネルギーがいる。だが反応はなし。たまに海外のサイトをのぞくと、私の悪口がてんこ盛りだし。こういう反応しかないのか。売れて儲かってるんだったら、そういうのは税金だと思えばいい。そんなの気にしませんよ。しかし、売れない、お客さん来ない、悪口多し、どうしてこういうマイナス・ファクターばかり集まってくるのかなぁ。
とにかく本当の正念場がやってきた。2を維持できるか、までいくのか、まあ、そこより先はないですが。